2026年第1四半期、厳しい現実が改めて浮き彫りになりました。米国の政府機関と教育機関は今、これまでに記録された中で最も苛烈なサイバー脅威環境に置かれています。中国との関連が疑われる国家支援型攻撃者が議会の通信を執拗に狙う一方、ランサムウェア集団はAIで強化したキャンペーンを州政府や学区に仕掛けています。脅威を取り巻く状況は、危険性、自動化の度合い、標的の絞り込みといういずれの面でも明らかに深刻化しています。
本ブログ記事では、2026年第1四半期に明らかになった重要な脅威インテリジェンスを整理し、急速に変化する状況に対応する公共部門のセキュリティ責任者に向けて、実行可能な指針を示します。
政策的背景:新たな国家サイバー戦略
トランプ政権は2026年3月6日、「President Trump's Cyber Strategy for America(トランプ大統領による米国のためのサイバー戦略)」を発表するとともに、米国民を狙うサイバー犯罪、詐欺、略奪的行為への対抗に関する大統領令を公布しました。この画期的な政策文書は、2026年を通じた方向性を次のように定めています。
- 民間部門による攻勢的サイバー作戦にこれまで以上の裁量を認め、より積極的な抑止態勢を促しています
- ランサムウェア集団、国家との関連が疑われる犯罪者、国家支援型攻撃者が入り乱れる脅威環境を主要な懸念事項として明記しています
- 官民連携の強化を防御の中核に据えています
- 国家によるサイバー作戦への重要な防御策に焦点を当てた2025年6月の大統領令を引き継いでいます
公共部門のセキュリティ責任者にとって、この政策転換は重要です。連邦政府が現状を、単にリスクが高まった段階ではなく、サイバー攻撃が常態化する時代だと認識していることを示すためです。防御戦略も、この現実に見合ったものにする必要があります。
出典:White House — President Trump's Cyber Strategy for America | White House EO — Combating Cybercrime(英語)
国家支援型脅威:Salt Typhoonが米議会に侵入
2026年第1四半期に確認された動きのうち、戦略面で最も深刻なのは、セキュリティ研究者が長年警告してきた事態が現実になったことです。中国との関連が疑われる国家支援型攻撃者が、米国政府の通信に深く侵入し、長期にわたるアクセスを確立しています。
SC MediaとNJCCICは2026年1月9日、中国との関連が指摘される攻撃者「Salt Typhoon」が、米下院委員会の職員のメールを標的にすることに成功したと確認しました。Salt Typhoonは、過去に米国の大手通信事業者へ侵入した攻撃者です。今回とりわけ狙われたのは、中国の外交政策や米国の外交問題を監督する国家安全保障関連委員会に所属する議会職員でした。
脅威インテリジェンスから判明した主な点:
- FBI幹部は2026年2月時点で、Salt Typhoonの活動が「今なお活発に続いている」と認めています
- 2月には、AT&TとVerizonがSalt Typhoonに関するセキュリティ評価報告書の公開を妨げていたと米上院議員が明らかにしました。透明性と規制当局による監督をめぐり、重大な懸念が生じています
- 中国との関連が疑われる別の攻撃者「UAT-7290」も、エッジネットワーク機器の脆弱性を悪用し、米国および同盟国の通信事業者を同時期に狙っていました。侵入先にはマルウェアを常駐させ、継続的な足掛かりを築いています
通信インフラへのアクセスと議会メールへの直接侵入を組み合わせることで、Salt Typhoonは中国をめぐる米国の機密性の高い政策協議を把握していた可能性があります。これは長期的な影響を伴う、防諜上の重大な危機です。
出典:Salt Typhoon Targets US House Committee Emails — NJCCIC(英語) | FBI: Salt Typhoon Still Ongoing — CyberScoop(英語) | AT&T/Verizon Block Reports — Nextgov(英語)
教育部門:攻撃件数が横ばいでもデータ漏洩は過去最悪
教育部門は、甚大な被害が生じた2025年の余波を抱えたまま2026年を迎えました。
- 2025年に世界の教育機関を襲ったランサムウェア攻撃は251件で、前年からわずかに増加しました
- 教育部門へのランサムウェア攻撃は、米国が世界最多の130件を記録しました
- 2025年に教育機関へのランサムウェア攻撃で漏洩したレコードは390万件に上り、前年の310万件から27%増加しました
- 教育部門における侵害1件当たりの平均コストは、2025年に380万米ドルへ上昇しました
- ランサムウェア被害を報告した高等教育機関のうち59%では、暗号化前にデータがすべて窃取されていました
これらの数字は、2024~2025年に相次いだ学校への攻撃が残した直接的な爪痕です。2026年に入っても、攻撃を受けやすい教育機関は依然として数多く存在します。学校では老朽化したインフラ、人員不足のITチーム、分断されたセキュリティ対策が使われ続けており、攻撃者にとって常に格好の標的となっています。
出典:Cybersecurity Dive — Education Ransomware 2025(英語) | GovTech — School Records Exposed(英語) | Comparitech — Education Ransomware Roundup(英語)
州政府システムへの侵害:イリノイ州とミネソタ州の福祉当局
2026年1月の初旬と下旬に、州政府からデータが漏洩する大規模なインシデントが2件発生しました。
2026年1月3日および21日 -- イリノイ州とミネソタ州の福祉当局:
- イリノイ州福祉局(DHS)では、システムの設定不備により、給付金受給者の個人識別情報(PII)を含む機密性の高い公的扶助データが、オンライン上で不正に閲覧できる状態となっていました
- ミネソタ州福祉局(DHS)で別に発生したインシデントでは、過剰な内部アクセス権限により個人情報と財務情報が不適切に開示されました。両インシデントを合わせた影響人数は100万人近くに上ります
両インシデントの根本原因は共通しており、設定不備と不十分なアクセス制御にありました。こうした脆弱性は、プロアクティブなサイバーリスクエクスポージャ管理(CREM)によって、悪用される前に検出し、修正できます。
出典:Illinois/Minnesota DHS Breaches — Cyber Management Alliance(英語)
サードパーティへの攻撃が法執行機関に波及:アンカレッジ警察
2026年1月16日、アンカレッジ警察は、サードパーティのサービスプロバイダがサイバー攻撃を受け、重要なシステムとデータにアクセスできなくなったことから、サーバをオフラインにせざるを得なくなりました。このインシデントは、公共部門を狙う攻撃で常態化しているサードパーティ/サプライチェーン攻撃の典型例です。
法執行機関は、公共の安全を守る業務でリアルタイムのデータアクセスに依存しているため、サプライチェーンを寸断する攻撃によって特に大きな影響を受けます。
出典:Anchorage Police Cyber Attack — Cyber Management Alliance(英語)
重要インフラ:AIを活用したランサムウェアが主役に
2026年が始まってわずか2カ月で、TrendAIが「The AI-fication of Cyberthreats」で示した2026年セキュリティ脅威予測が早くも現実のものとなっています。2026年第1四半期におけるランサムウェアの最も顕著な変化は、攻撃チェーンにエージェント型AIが組み込まれたことです。
- ランサムウェア集団はAIを導入し、偵察、脆弱性スキャン、標的の優先順位付け、さらには身代金交渉まで自律的に処理するようになりました。これにより、攻撃1件に必要な人手が大幅に減っています
- セキュリティ責任者の93%は、2025年までにAIを利用した攻撃へ日常的に直面すると予想しています(TrendAI調査)
- 2026年初頭の米国では、攻撃頻度が世界平均を62%上回っています
- ランサムウェア攻撃の前段階で認証情報窃取と永続化を自動化するために設計された新たな初期アクセスツール「Tsundere Bot」が、2026年1月に登場しました
- 2025年上半期に政府機関へ影響したランサムウェアインシデントは、前年同期比65%増の208件に達しました。この傾向は2026年も続いています
出典:「法人セキュリティ脅威予測2026 ~AI化されるサイバー脅威~」 | SentinelOne — Cybersecurity Statistics 2026(英語) | VikingCloud — Ransomware Statistics(英語)
2026年第1四半期に公共部門を狙って実際に悪用された重大な脆弱性
2026年第1四半期、政府機関とインフラ運用者を取り巻く脆弱性悪用の状況は、特に危険なものとなっています。

要点: パッチが未適用のFortinet、Cisco、VMware製インフラを運用する政府機関は、2026年第1四半期において差し迫った現実のリスクにさらされています。2020年に発見されたCVE-2020-12812は、インターネットに公開された1万台以上のファイアウォールで今なお未修正のまま、悪用が続いています。この事実は、公共部門におけるパッチ適用の遅れを如実に物語っています。
TrendAI™の対応:事後対処からプロアクティブな防御へ
TrendAIの主要リサーチ「U.S. Public Sector Under Siege」(英語)で示したように、2026年に政府機関と教育機関が直面する脅威へ対応するには、インシデント発生後の対応から、プロアクティブなサイバーリスクエクスポージャ管理(CREM)へ根本的に転換する必要があります。
「TrendAI Vision One™」は、次の4つの主要機能によって、この転換を支援します。
- すべての資産を検出して棚卸し: シャドーIT、シャドーAI、管理対象外のエンドポイント、サードパーティ連携を含め、福祉当局やアンカレッジ警察のインシデントで悪用されたような死角を生む資産を把握します
- リアルタイムでリスクを評価: 第1四半期の重大なCVE一覧に含まれる脆弱性などを最新の脅威インテリジェンスと照合し、攻撃者が攻撃を仕掛ける前に継続的に評価します
- 脅威への露出を予測: 振る舞い分析と攻撃者のプロファイリングを活用し、Salt Typhoonのような永続化や、AIを利用したランサムウェア攻撃の前兆となる活動を予測します
- 緩和ワークフローを自動化: 分散した政府機関やキャンパス環境全体で修復までの平均時間を短縮し、現在実際に悪用されているパッチ適用の遅れを解消します
2026年第1四半期に優先すべき対策
2026年第1四半期の脅威インテリジェンスに基づき、公共部門のセキュリティ責任者が今四半期に優先すべき5つの対策を以下に示します。

2026年の残りの期間に注視すべき動向
2026年第1四半期の動向から、公共部門の組織が今後注視すべき脅威がいくつか見えてきます。
- 攻撃チェーンにおけるエージェント型AI: 攻撃者は、完全に自律化した攻撃パイプラインを試しています。今後、急速に成熟し、広く導入されると予想されます
- Salt Typhoonの標的範囲拡大: 通信事業者と議会へのアクセスが確認された今、連邦政府の調達データベース、機密指定システム、重要インフラの制御ネットワークへ標的が広がると予想されます
- 選挙システムを狙うランサムウェア: 中間選挙が近づくにつれ、有権者登録や選挙インフラに接続する連邦・州・地方・教育機関(FED/SLED)のリスクが高まります
- サプライチェーンを連鎖的に襲う攻撃: 政府機関にサービスを提供する事業者が標的になると予想されます
おわりに
2026年の脅威環境は、2025年の課題がそのまま続いているのではなく、さらに加速しています。AIによって高度な攻撃への参入障壁が下がる一方、AIを活用した行政サービスが急速に導入され、アタックサーフェスも拡大しています。国家支援型攻撃者は、米国政府中枢の通信にまで侵入できることを実証しました。ランサムウェア集団は、専門企業にも匹敵する効率で活動しています。
「組織ごとに分断された事後対処型のセキュリティ対策では、もはや対応できません。サイバーレジリエンスを実現するには、脅威を先読みし、攻撃が成功する前にリスクへの露出を減らす、インテリジェンス主導の統合型セキュリティ戦略が必要です」
— 「U.S. Public Sector Under Siege, Trend Micro Research, Feb. 6, 2026」(英語)
TrendAI™ Vision One™は、まさに現在の脅威環境に対応するために設計されています。政府機関と教育機関が公共部門を取り巻く脅威に先んじるために必要な可視性、インテリジェンス、自動化を提供します。
参考記事
U.S. Public Sector Under Siege: Threat Intelligence for Q1 2026
By Jon Clay
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, Trend Micro™ Research)