Key Takeaways
- 米国アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)は、Qilinランサムウェアグループのリークサイトに掲載された後、スタンドアロンシステムに影響する侵害を報告しました。
- Agendaの名でも知られるQilinは、活動規模が大きく、急速に進化しているランサムウェアグループで、複数の国の幅広い業界を攻撃しています。
- 重要システムの分離、多要素認証(MFA)の徹底、不審な活動の監視を中心とするプロアクティブなセキュリティ対策は、Qilinをはじめとする進化するランサムウェアの脅威から組織を守るうえで不可欠です。TrendAI™ Researchは、このグループの出現時から動向を監視し、継続的に分析情報を提供しています。
米国アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)は、犯罪捜査に関する機密情報を格納していたスタンドアロンシステムで、サイバーセキュリティインシデントが発生したことを確認しました。ATFは影響を受けたシステムを速やかに隔離して停止しましたが、インシデントの調査は継続中です。
本記事は、8月26日(水)にATFがQilinのリークサイトに掲載されたことを受けたものです。ATFは侵害を確認したものの、Qilinの関与については言及しておらず、具体的な攻撃者も特定していません。
ATFはプレスリリースで、影響を受けたシステムは同局のエンタープライズネットワークから独立して稼働しており、ATF eFormsシステムを含むほかのATFシステムへの影響は確認されていないと説明しています。eFormsシステムは各種申請や登録を電子的に提出するために利用されるため、侵害が発生した場合の影響は特に重大です。ATFはほかのシステムへの影響を否定していますが、米司法省(DOJ)の高官は、適用される指針に基づき本件を連邦政府の「重大インシデント」に指定しました。
Qilin RaaSグループについて分かっていること
TrendAI™ Researchは、2022年に出現して以来、Water Galuraとして追跡され、以前はAgendaと呼ばれていたQilinのRaaS(Ransomware as a Service)グループを監視してきました。Qilinは、戦術を進化させながら幅広い組織を標的とし、ほかのランサムウェアグループとも積極的に連携していることから、二重脅迫型ランサムウェアの攻撃者の中でも特に警戒されています。
技術面の進化と戦術
Qilinの初期活動は2022年7月に遡ります。当時は、アフィリエイト向けに構成をカスタマイズできるGo言語ベースのランサムウェアを提供していました。その後、Rust言語ベースの亜種を導入し、「Qilinランサムウェアが、リモート管理ツールとBYOVD手法を利用し、Windowsシステム上でLinux版を展開」で報告したとおり、Windows、Linux、ESXi環境へと対象を広げました。さらに、PowerShellベースのツールを用いてVMware vCenterおよびESXi環境でラテラルムーブメントと展開を行い、アタックサーフェスを拡大しました。
2024年から2025年にかけて、アフィリエイトは「「Agenda」ランサムウェアを隠匿して展開する攻撃キャンペーンを確認:その巧妙な手口を解説」で取り上げたSmokeLoaderやNETXLOADERなどのマルウェアローダーを追加で採用し、防御回避には「Bring Your Own Vulnerable Driver」(BYOVD)手法を利用しました。こうした動きからは、Qilinが柔軟に戦術を変え、業界を問わず恐喝を行っていることが分かります。
提携と最近のキャンペーン
Qilinは、活発なオペレーションを維持しながら、ほかのグループとの提携にも力を入れています。2025年9月15日には、DragonForceやLockBitを含むランサムウェア攻撃者の提携に参加しました。
2026年に入ってからもQilinは活動を続けており、ATFに加えて、ドイツの製造会社やタイヤ会社も最近の被害組織とされています。Qilinは依然として幅広い業界を標的にしていますが、この傾向からは製造業を重視していることがうかがえます。
恐喝戦術とリークサイトでの活動
QilinはTor上でデータリークサイトを運営し、侵害の証拠を掲載することで被害組織に身代金の支払いを迫っています。身代金の要求額は、被害組織の支払い能力を見積もったうえで設定されます。ATFへの攻撃にQilinが実際に関与していたとすれば、同グループがこれまで用いてきた攻撃パターンと一致します。
2025年までに、Qilinは最も活発なランサムウェアオペレーションの一つとなり、約1,400の被害組織をリークサイトで公表しました。これは2024年と比べて538%の増加です。TrendAI™ OSINTが2026年1月から8月までに監視したデータからも、Qilinによる被害が幅広い業界と地域に及んでいることが分かります。


TrendAI Vision One™ Threat Intelligence Hub
TrendAI Vision One™ Threat Intelligence Hubは、新たな脅威や攻撃者に関する最新の分析情報、TrendAI™ Research独自の戦略レポート、TrendAI Vision One™ Threat Intelligence FeedをTrendAI Vision One™プラットフォームで提供します。
- 攻撃者: Water Galura(Qilin)
- 侵入の痕跡(IoC: Indicator of Compromise)を対象としたインテリジェンスレポート: Water Galura Intelligence Reports(Water Galuraインテリジェンスレポート)
TrendAI Vision One™のユーザは、Qilinに関連するIoCを取得し、自社環境全体を遡及的にスイープできます。
TrendAI Vision One™ XDR Data Explorer App
TrendAI Vision One™のユーザは、XDR Data Explorer Appを使用して、自社環境内でQilinに関連する不正なインジケータを照合またはハンティングできます。
(malName: *QILIN* OR malName: *AGENDA*) AND eventName: MALWARE_DETECTION AND LogType: detection
Threat Intelligence Hub Entitlementを有効にしているTrendAI Vision One™のユーザは、さらに多くのハンティングクエリを利用できます。
推奨事項
Qilinは現在、最も活発なランサムウェアオペレーションの一つです。複数のプラットフォームに対応するGo言語およびRust言語ベースの亜種をカスタマイズして展開し、高度なラテラルムーブメントと防御回避の手法を駆使するほか、ほかの主要な攻撃者とも提携しています。こうした能力を踏まえると、プロアクティブな多層防御が欠かせません。
TrendAI™は、企業がQilinランサムウェアへの警戒を強め、TrendAI Vision One™プラットフォームで提供されるリソースを最大限に活用することを推奨します。
以下のベストプラクティスは、Qilinや同様のランサムウェア攻撃から組織を守るうえで役立ちます。
- リモートアクセスおよびIT管理ツールを保護する: リモート監視・管理(RMM)プラットフォームからの接続を許可された管理ホストに限定し、MFAを徹底します。営業時間外のログインや不審なラテラルムーブメントなど、通常とは異なる活動も監視してください。重要システムで実行を許可するアプリケーションとスクリプトも制限します。
- バックアップ基盤を強化する: バックアップネットワークをセグメント化し、最小権限の原則を適用するとともに、管理者の認証情報を定期的に変更します。PowerShellやSQLクエリなど、管理ツールの不審な利用も監視してください。認証情報が侵害された場合に、トークンやアカウントを速やかに失効できる仕組みも整備します。
- BYOVDとクロスプラットフォームの脅威を検知する: 署名のないドライバや想定外のドライバの読み込み、DLLサイドローディング、WSLを含むWindows上でのLinuxバイナリの実行を監視します。非ネイティブなペイロードも検知対象に含め、WindowsとLinuxの両方をエンドポイント保護の対象にしてください。
- ハイブリッド環境の可視性を高める: EDRおよびSOCの監視対象に、WindowsとLinuxの両システムから得られるテレメトリを含めます。内部でのラテラルムーブメントの兆候や、ハイブリッド型ランサムウェア活動の初期兆候にも注意してください。
- 認証情報とアクセストークンを保護する: フィッシング耐性のあるMFAを導入し、条件付きアクセスポリシーを強化します。特権アカウントやトークンの通常とは異なる利用も綿密に監視してください。
リソース
TrendAI™ Researchは、二重脅迫の手口が台頭した2020年より前から、ランサムウェア攻撃者を監視してきました。ランサムウェアは依然として継続的なサイバー脅威であり、リソースの共有、人員の移動、摘発後のグループ再編を通じて進化を続けています。こうしたグループの一つであるQilin(Agenda)については、詳細レポート「ランサムウェアスポットライト:Agenda」で詳しく解説しています。
参考記事
ATF Reports Breach After Qilin Leak Site Appearance: Insights from TrendAI™
By : TrendAI™ Research
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, Trend Micro™ Research)