AIの導入は速く、セキュリティは後を追っています
「ガバナンス」と口にする間もないほどの速さで、AIは組織に入り込んでいます。チームはクレジットカード1枚でツールを契約し、その日の午後には導入します。今や、イノベーションはこのように進んでいます。
AIセキュリティの成熟度を見極める方法について、サイバーセキュリティの専門家であるBrent Coonrod、Sachin Jain、Ashish Rajanの3氏に尋ねました。3人が挙げたのは、すべてのセキュリティリーダーが答えられるようにしておくべき次の3つの問いです。
- AIがどこで使われているか把握できていますか?
- 誰が責任を負うのか把握できていますか?
- AIが管理下にあると証明できますか?
この3つの問いは、AIセキュリティ成熟度を評価する本フレームワークの中核です。成熟度を左右するのは、順に可視性、可観測性、オーナーシップ、ガバナンスという4つの能力です。
可視性があれば、何が起きているのか、どのAIツールが使われているのか、データがどこへ流れているのかを把握できます。可観測性からは、その理由が分かります。たとえば、AIが個人のスキル向上に使われているのか、それとも気付かないうちに顧客データを移動させているのかを見極められます。これは単なるノイズとリスクを分ける重要な違いです。オーナーシップとは、各ツールやエージェントの責任者を明確に定め、実効性のあるポリシーを整備するなど、把握した状況にどう対処するかを意味します。最初の3つを適切に実現すれば、AIセキュリティの取り組みに欠かせないガバナンスへとつながります。
2026年に世界のビジネスおよびITリーダー3,700人を対象に実施したAI調査「Securing the AI-Powered Enterprise」(英語)では、67%が、セキュリティ上の懸念があってもAIの利用を承認するよう圧力を感じていると回答しました。迅速な導入を求める圧力が、安全確保に必要な規律を上回っているのです。現在、多くの組織が埋めようとしているのが、このギャップです。
この点で、AIは従来のあらゆる技術と異なります。これまでの技術には、導入の入り口がありました。購入、導入、ガバナンスの整備を経て、初めて大規模に利用されるようになったのです。ところがAIはその順序を飛び越え、セキュリティ部門が存在を把握する前に事業部門へ入り込みます。もはやガバナンスを最初に整えることはできず、後から追いつかなければなりません。
組織が現在どの段階にあっても、以下のフレームワークを使えば、着手点を定め、一層ずつ取り組みを積み上げていけます。
可視性:見えないものは統制できません
AIの導入は、セキュリティチームが追跡できる速度を上回って進むことがあります。従業員がツールを契約し、各チームがアシスタントを導入し、新しいAIプロジェクトが立ち上がる一方で、ガバナンスのプロセスは追いつきません。その結果生じるのがシャドーAIです。見えないものを守ることはできません。可視性が示すのは「何が起きているか」です。どのツールを誰が使い、データがどこへ流れているのかを把握します。
以下の動画でAshish氏は、「シャドーAIは、包装を変えただけのサンドイッチにすぎないのでしょうか」と問いかけています。ただし、何が稼働しているかを把握するだけでは、下側のパンにすぎません。肝心の具に当たるのは、それが実際に何をしているのかを理解することです。
可視性についての動画を見る(英語)
可観測性:AIの不審な挙動に気付けますか?
可視性からは、人々が何をしているのかが分かります。可観測性から分かるのは、なぜそうしているのかです。誰かがAIアシスタントを使っていると把握するだけでは足りません。個人のスキル向上に利用しているのか、それとも顧客データをアップロードしているのかを把握できてこそ、ノイズとリスクを見分けられます。
たとえば、AIアシスタントが読み込む文書の中にプロンプトインジェクションが潜んでいたとします。アシスタントはその指示に従い、データを移動させます。それでも通常の挙動に見えます。実際、システム上は通常の処理として実行されるからです。AIを狙った攻撃の厄介さは、明確な兆候を伴わない点にあります。正規のユーザ、承認済みのアプリ、通常の呼び出しにしか見えません。可観測性とは、AIの稼働中に挙動を監視し、まだ対処できるうちに脅威を捉えることです。事後に気付くだけなら、それは観測ではなく、起きたことを説明しているにすぎません。
オーナーシップ:すべてのAIツールに責任者が必要です
何が、なぜ起きているかを把握しても、対処する人がいなければ役に立ちません。あるチームが調達業務を自動化するためにAIエージェントを立ち上げたとします。うまく動くため、そのまま使われ続けます。しかし、誰が責任者なのか、何にアクセスできるのか、誰が権限を確認するのかを説明できる人はいません。現在、エージェントやボットは組織の環境内で実際のアクセス権を持っており、その権限が役割上の必要範囲を大きく超えていることも少なくありません。
すべてのツールとエージェントに責任者を定め、必要最小限のアクセス権だけを与える必要があります。責任を負う人がいて初めて、ポリシーは意味を持ちます。先ほどの動画に登場したデリに戻りましょう。以下の動画では、どのベンダーもAIセキュリティの課題を解決できるのかとAshish氏が問いかけます。
ガバナンス:確信を証拠に変える
可視性、可観測性、オーナーシップを適切に実現すれば、取締役会から繰り返し問われる「AIに対するセキュリティ対策は整っているか」という質問に、ようやく答えられるようになります。
ここで、最初の3つの層が効果を発揮します。ガバナンスが取締役会の議題に上る頃には、実務上の対応はすでに終わっていなければなりません。取締役会が尋ねるのは、AIを導入しているかどうかではなく、AIが管理下にあると証明できるかどうかです。責任者も監査証跡も管理を示す手段もなく、何一つ監査できないとなれば、会議では答えに詰まります。「対応しています」だけでは答えになりません。
ガバナンスはチームで取り組むものであり、CISOだけでは担えません。AIを利用するチームに加え、法務部門やコンプライアンス部門にも関係があります。成熟した組織では、AIを共通の責任として扱い、ガードレールを備えたガバナンス委員会を運営します。ガバナンスを一人だけに委ねているなら、それは健全な体制ではなく危険信号です。
可視性、可観測性、オーナーシップは、ガバナンスを通じて証拠へと変わります。米国国立標準技術研究所(NIST)のAIリスクマネジメントフレームワークなどに照らしてAIリスクを評価・管理していることを、取締役会や監査担当者が利用できる監査対応可能なレポートによって継続的に示せるようになります。ガバナンスは証拠であり、その証拠が確信につながります。
最後の動画では、AIに問題が起きたときに誰が責任を負うのかをAshish氏が尋ねます。その答えは、意外なものかもしれません。
ガバナンスについての動画を見る(英語)
覚えておくべきこと
以上が、各層を積み上げる本フレームワークです。ここで率直に現状を見つめてみましょう。組織は今、どの段階にいるでしょうか。AIセキュリティ成熟度で求められるのは完璧さではありません。AIがどこに存在し、どのように振る舞い、誰が責任を負うのかを把握することが重要です。AIの所在を把握し、挙動を監視し、アクセス権に責任を持つ。この3つが機能すれば、取締役会に示せる証拠が得られます。
現時点で3つの層すべてが十分に整っている組織は多くありません。それを証明するガバナンスの確立には、さらに時間がかかります。これは失敗ではなく、成熟へ向かう過程です。重要なのは、最初にどの層が機能しなくなるかを把握することです。次に取り組むべき課題は、そこにあります。可視性から始め、可観測性を高め、オーナーシップを確立すれば、ガバナンスが形になります。
AIセキュリティ成熟度を高める目的は、イノベーションを減速させることではありません。安心して迅速に前進できる基盤を整えることです。詳しくはこちらをご覧ください。TrendAI Vision One™が、AIのセキュリティとガバナンスを確保しながらイノベーションを加速する仕組みを体験するには、プラットフォームの無料トライアルにお申し込みください。
さらに詳しく知りたい方は、以下の資料をご覧ください。
- 「Securing the AI-Powered Enterprise」(英語):67%という調査結果の根拠となった2026年のレポート
- 「The AI Accountability Gap」(英語):自律型AIのガバナンスに向けたCISOガイド
- 「AI Security Brief」(英語):AIがサイバーセキュリティをどう変えつつあるのかを解説するポッドキャスト
参考記事:
Assess Your AI Security Maturity Through Visibility, Observability, Ownership, and Governance
By: Truman Coburn
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, TrendAI™ Research)