Key Takeaways
- 国家との関連が疑われる攻撃者によるAI導入の進み方は一様ではありません。各国の資源、制約、戦略上の優先事項、AIへのアクセス経路に左右されます。
- 中国は、国内AIエコシステムの厚みと冗長性を背景に、AIをサイバー作戦へ統合するうえで最も有利な立場にあります。欧米のサービスを利用できなくなっても、国内モデルを代替手段として使えます。
- ロシアとの関連が疑われる攻撃者は、AIによる調査支援から実運用への統合へと進んでいます。LLMが生成するマルウェアのコマンド(LAMEHUGなど)や、AIが生成するおとりコード(CANFAIL、LONGSTREAMなど)が確認されているほか、少なくとも1件の諜報キャンペーンでは侵入ライフサイクル全体にAIが使われました。
- 北朝鮮は、インフラの不足をアクセス手段で補っています。海外のAIサービスとIT人材派遣の仕組み(米国企業100社以上への潜入が確認されています)を利用し、国内の計算資源に関する深刻な制約を補っています。
- 攻撃者間の協力(ロシアと中国、ロシアと北朝鮮、イランとロシア)により、AIに関連するツール、手法、能力が相互に広がる経路が生まれる可能性があります。
詳細な事例研究、技術的な指標、各国固有の攻撃手法を含む全体像については、レポート全文(日本語版)をご覧ください。
調査協力:Joseph C Chen
AIは国家の戦略的能力となり、各国の競争、防衛、影響力の行使、とりわけサイバー空間における活動を形づくっています。政府によるAIの導入方法からは、その国の優先事項や制約が見えてきます。同じ要因が、国家との関連が疑われるサイバー活動、特にAPT(Advanced Persistent Threat)にも影響を与えています。
本リサーチでは、各国のAIエコシステム、資源上の制約、国内外のAI能力へのアクセスが、中国、ロシア、北朝鮮、イランと関連が疑われる攻撃者によるサイバー作戦でのAI導入をどのように形づくっているかを検証します。
レポート「AI国家戦略とサイバー脅威 2026:各国のAIエコシステムがAPTのAI導入に与える影響」では、近年公表された調査結果にTrendAI独自のリサーチを加え、各国によるAI導入を包括的に分析しています。本記事では、その主な調査結果を紹介します。
図1. 各国のAIエコシステムがAPTによるAI導入をどのように形づくってきたか
中国
中国は、AIを活用したサイバー作戦を支える最も強固な構造的基盤を有しています。研究基盤、国内モデルのエコシステム、軍民融合の枠組み、インフラ投資により、高度な能力と国内の代替手段の両方を確保しています。
こうした発展に呼応するように、中国との関連が疑われる攻撃者は、脆弱性調査、エクスプロイトの改変、マルウェア開発、侵入後の活動にAIを利用しています。侵入中に、実行者が欧米のモデルから中国製モデルへ切り替えたとみられる事例も1件確認されています。
ロシア
ロシアは資源上の制約のもと、能力増強の手段としてAIを選択的に利用しています。ロシアとの関連が疑われる攻撃者は、大規模言語モデル(LLM)を偵察、スクリプト作成、マルウェア開発、難読化、実行時のコマンド生成に使っています。少なくとも1件の諜報キャンペーンでは、侵入ライフサイクル全体にAIが適用されました。フロンティアモデル開発に制約があっても、作戦上の成果を得る妨げにはなっていないことが分かります。
北朝鮮
北朝鮮は、インフラの不足をアクセス手段で補っています。北朝鮮との関連が疑われる攻撃者は、海外のAIサービス、国外の人員、ローカル環境で稼働するモデルを組み合わせ、国内の限られた計算資源を補完しています。こうした手段は、就労詐欺、ソーシャルエンジニアリング、マルウェア関連活動、情報収集を支えています。
イラン
イランは、国内のフロンティアAIエコシステムに制約がある一方、商用AIサービスを広範に利用しています。イランとの関連が疑われる攻撃者は、標的型ソーシャルエンジニアリング、偵察、脆弱性調査、コーディング、マルウェア開発、影響工作にAIを使ってきました。一方、ホスト型サービスへの依存は、プロバイダ側による検知や阻止の機会にもつながります。
防御側が押さえるべきポイント
重要なのは、攻撃者がフロンティアAIを保有しているかどうかだけではありません。高性能なモデルへのアクセスだけでも、すでに作戦上の大きな成果を得られます。一方、その能力をどれほど安定して、独立して、どの規模で維持できるかは、エコシステムの厚みに左右されます。
AIを活用したこうした戦略の強靭性は、国内AIエコシステムの成熟度と代替経路の有無によって異なります。防御側は、単一のプロバイダやアカウントを遮断しても、攻撃者による高性能モデルへのアクセスを必ずしも排除できないと考える必要があります。
したがって、APT攻撃への防御では、各攻撃者が属する国のAIエコシステムと、これまでどのように制約を回避してきたかを考慮する必要があります。推奨事項は次のとおりです。
- AIサービスのエンドポイントへの接続は有用な指標ですが、それだけでは不十分です。エンドポイントと振る舞いの検知をより重視してください。サーバや通常想定されないホストからAIサービスのエンドポイントへの異常な接続は、監視すべき実用的なシグナルです。ただし、攻撃者がホスト型サービスから離れるにつれて、こうした可視性は低下する可能性があります。
- 攻撃者の特定には、インフラ、標的、アクセス手法、被害組織の特性、キャンペーンの振る舞いなど、より広い作戦上の文脈を重視する必要があります。攻撃者がコードの生成、改変、難読化を広く利用可能なモデルに任せるようになると、コーディングスタイルや実装レベルの特徴は、攻撃者を識別する指標としての信頼性が低下する可能性があります。
- AI企業やその他のテクノロジー企業など、APTの標的となり得る組織は、本人確認を強化し、委託先担当者やリモートワーカーの受け入れ手続きを厳格化するとともに、最小権限のアクセス制御を適用する必要があります。
- インターネットに公開されたシステムの堅牢化、フィッシング耐性のある認証の導入、認証情報の悪用や横展開の監視は、引き続き中核的な対策です。AIが変えるのは、攻撃が到来する速度と規模です。
詳細な事例研究、技術的な指標、各国固有の攻撃手法を含む全体像については、レポート全文(日本語版)をご覧ください。
執筆者について
TrendAI™ ResearchのForward-Looking Threat Research Teamは、1~3年先の技術動向を調査する専門チームです。技術の進化、社会への影響、犯罪への応用という3つの側面を重点的に分析しています。2020年には、Europolおよび国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)と共同で、このテーマに関する「Exploiting AI: How Cybercriminals Misuse and Abuse AI and ML」(英語)を発表するなど、AIとその悪用の可能性を継続的に注視しています。
参考記事:
From State AI Ecosystems to Global APT Cyberthreats
By: Asako Koizumi , Feike Hacquebord
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, TrendAI™ Research)